お買い物は楽天で

ページ

2011年6月12日日曜日

銀河鉄道を空に見ながら、温泉に入る夜   岩手県松川温泉の思いで

【今日の一言】
♪さあ行くんだ、その顔を上げて♪

【今日のもう一言】
夏の松川温泉もいいと思いますよ。

【今日のさらにもう一言】
地熱発電、頑張れ!

【今日の注釈】
この文章は、数年前に書いたものです。地熱発電応援を兼ねて、
多少の手を加えて再掲します。

【今日の、最後にもう一言】
この話は、本ブログの
「緑の街に舞い降りて……6月の花嫁」のベースの話の一つです。併せて読んでいただけると嬉しいです。



今朝、四ツ谷駅を歩いていると、あるポスターに目がとまった。松川温泉のポスターだ。松川温泉は、岩手県岩手郡にある秘湯。盛岡から車で数時間の距離だったと思う。



その松川温泉に泊まったのは、もう、20年くらい前のことだ。

当時、僕が勤めていた会社の友人M(男性)が、僕と、やはり同じ会社の先輩コピーライターN氏を、松川温泉に行こう、と誘ってきたのだ。

どうやらMには、盛岡に付き合っている女性がいて、そのデートにどういうわけか、僕とMが付き合わされたのだ。

デートなら二人ですればいいじゃないか、と疑問を感じたのだけど、からくりはこうだった。

Mはその頃、盛岡の放送局に勤める女性と付き合っていた。しかしその女性には、別の婚約者がいた。
そのために二人っきりで松川温泉に行くのは、誰かに見つかるとヤバいので、お互いが他の友だちを誘って、合コン形式に仕立てた、ということだ。

その結果、
先方は、放送局の女性と、プラス2名の計3名(実は全員同じ放送局勤務だったのですが)。こちらは、件のMと僕とNの3名が、松川温泉に宿泊することになった。

が、そんないきさつは、置いておいて、温泉は最高だった。



既に雪ふる季節だった。
東京から新幹線で盛岡まで行き、レンタカーを借りて雪降り積もる道を数時間運転して宿に到着したときは、薄暗くなっていたが、その中を鋭く光る粉雪が、防寒着を貫いて皮膚を刺す勢いで降っていた。

松川温泉といえば、地熱発電で有名だけど、温泉としても素晴らしい。泉質は酸性単純硫黄泉。
宿は山小屋風で、風情があるとかそういった感じではなく、風情が建物になった感じ。秘湯なのだ。

冷めた身体を温めるために、私たち3人と、女性陣3人も早速温泉に入る。

温泉の中は薄暗い。そこにランプ一灯がほのかな明かりを放つ。
岩でできた湯船に、白濁した強くて暑いお湯に入ると、東京から盛岡を経ての行程の疲れはすっかり忘れ、
冷えによる身体のこわばりもすっかり緩んだ。

内湯を出ると、外に川が流れている。その川にかかる吊り橋を渡ると、露天風呂がある。

身体は内湯で芯から温まっている。
降る雪をものともせず吊り橋を渡り、岩の風呂と同じように白濁した露天風呂に入る。ここには既に先客。一緒に来た放送局の女性3人に加え、数人の女性客。露天風呂は混浴なのだ。

混浴の温泉に入った経験があるかたはおわかりいただけると思うが、このような場合、いやらしい気持ちは全くといっていいほど起こらない。むしろ大自然と一緒に生きている感覚になり、男女とも、もっと先のところで開放された気持ちになる。

忘れずに持ってきた缶ビールを開け、みんなで飲んだ。外は寒いが身体は熱く、熱燗ではなく冷えたビールがうまいのだ。天を仰ぐと、雪はすっかり上がり、湯煙超しに、星が見える。
耳を澄ませば、せせらぎの音とか山の静寂が聞こえてくるのだが、空を走る列車の音も聞こえたような気がした。銀河鉄道だ。僕たちは、空を走っている列車の軌道に光りを見たような気がした。
宮沢 賢治¥ 1,433


温泉の後は、食事である。
お決まりの京懐石をまねた料理ではなく、山菜と川魚を中心にした素朴な料理。それにビールと地酒が加われば、もはや言うことはない。疑似合コン温泉旅行はドンドン盛り上がる。とにかく素晴らしい温泉と食事とお酒があれば、最高ですよ。

宴もたけなわ、僕の前の会社の先輩コピーライターN氏が「実は温泉に入る前から我慢していたんだ」と、トイレに行った。大きい方である。我慢せずに温泉に入る前に済ませろよ、とは思ったが、あの寒さだったから、それもしかたない。
ところが、N先輩、1分もしないうちにトイレから帰ってきた。

「早かったですね」と僕が尋ねると
「いや、我慢する」とN氏。
「どうして?」と質問すると
「答えは自分で行って確認しな」

僕は、トイレまで行き大用ボックスのドアを開けた。
そこで僕が見たものは……便器から、それはまるで湯煙のように立ち上がる湯気であった。山奥の温泉である。水洗や浄化槽の設備は無かったのだ。
しかし、M氏も人間である。我慢には限界がある。「仕方ない」と腹をくくって、再びトイレに向かった時に、彼が口ずさんだ歌が、冒頭の「今日の一言」で紹介したものだ。顔を上げたくなったのも、わかります。


※現在、松川温泉のトイレは、おそらく改修されて浄化槽か水洗になっていると思われます。
もし、松川温泉にいこう、と思い立った方は、ご自分で確認して下さいね。

0 件のコメント:

コメントを投稿