宿題に出た読書感想文はラフカディオ・ハーンの「耳なし芳一」でした。
あれは、小学校5年のことでした。だからもう数十年前の話ですが。
夏休みがあけて、9月1日。
新学期の初日に登校するときの気持ちは、微妙ですよね。夏休みが終わってしまった、という寂しさと、友だちや先生に会えるうれしさと。
それから夏休みの終わりの何日かで仕上げたたくさんの宿題を提出して、ほっとする感じ、あの開放感。
意識はしていませんでしたか、夏から秋へ、あの一日で子どもの頭の中では切り替わるのですね。
で、僕が小学校5年生の時の、2学期の初日のことです。
教室は賑やかです。友だちとの久しぶりの教室での再開のうれしさ、40日間離れていた教室の香り、若い美しいH先生の笑顔……。
一段落ついて、教室全体が落ち着いた頃、夏休みの宿題の提出になります。
小学校ですから、先生が科目ごとに違う、ということはないので、一度にどっさり出します。
自由研究(当時は科学研究と言ってましたね)、算数の宿題、国語の宿題、理科と社会、そして家庭科の宿題……。
「はい、これで全部ですね。宿題忘れた人、いますか? はい、まだやっていない人、いますか?
ダメですよ、夏休み中にしっかりやらないと。
まだやってない宿題がある人は、来週の月曜日までに、しっかりやってきてね。
約束ですよ。
今日は始業式ですから、これで終わりです」
と、先生。
あれ、先生、もう一つ宿題の提出があるんじゃ……。
「先生、厳島神社のことについて調べる宿題は提出しなくていいんですか?」
僕は、一番力を入れた夏休みの宿題は提出しなくていいのか、質問しました。
厳島神社は、日本三景の一つ宮島(厳島)にある神社で(⇐皆さんご存知ですよね)、平清盛が隆盛にした神社で、平家ゆかりの神社です。
僕が生まれて育ったところには、厳島神社の外宮=地御前神社があり、厳島神社と誤嚥が深いところなのです。
先生は、夏休みに入る前に言いました。
「厳島神社のことを調べてきてくださいね。地御前ととてもご縁の深い神社です。厳島神社のことを調べると、地御前のこともいろいろわかります。面白いですよ。
この宿題は、少しでもいいですから、必ずやってきてくださいね」
間違いなく、先生はこう言いました。
僕は、面白い宿題だと思い、結構一所懸命にやりました。地御前神社の宮司さんのところに取材したりして。
ところが、9月1日の2学期の初日、先生はこの宿題の提出を求めないのです。
「先生、この宿題面白いから絶対にやってこいって言ったじゃないですか?」
と僕が問うと
「え、そんな宿題、出してないですよ」
みんなも、
「そんな宿題出てないよ」「ええ、何いってんの、無いよの宿題」「そんな宿題知らないよ」「出てないって、そんなの」……。
誰に聞いても、そんな宿題出ていないのです。
先生も「全く記憶がない」って。
でも僕は確かに、夏休みに入る前に聞いたのです。だから一所懸命、やったのです。
何だったのでしょうか、あの宿題は。
「僕は、聞いたよ、先生があの宿題、出したよ」