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2013年2月15日金曜日

高校時代 (イントロ的なもの)


【再会】

中央線の上り電車は、大きく右に曲がりながら新宿駅に入ろうとしていた。
西荻窪に仕事があってその帰り。14時を周る頃。席は空いていたが、進行方向に向かって右側に立っていた。
僕が乗っていた中央線の快速のすぐ側を、登りの各駅停車が並行して走っていた。
何気なく、その各駅停車を見ていたら、その電車のドアの内側から、こちらに視線を送ってくる人物がいる。
僕はその女性をよく知っていた。

Sだった。
彼女とは高校の同級生。黒い髪と、すこし大きな瞳。美少女とまではいかないが、清楚で静かなイメージで、結構男子から人気があった。ただし、陸上部に所属していていて、放課後はトラックを走っていたので色は黒かったが。

僕は、各駅停車に乗っているSに、手を振った。僕も気づいているよ、というサイン。彼女も僕に手を振り返してくれた。
新宿で降りよう、すこし話でもしないか、と身振り手振りで彼女に伝える。彼女もオッケイのサインを送ってくる。
突然の再会。こういうこともあるんだな、と少し胸がときめいた。

高校の頃、僕は彼女と付き合っていたわけではない。彼女は陸上部でハードルを跳んでいたし、僕はサッカー部でグランドを駆けずり回っていた。
ただ、帰りの電車がよく一緒になった。市内にある高校だったけど、僕と彼女は郊外から通っていた。電車が乗換駅まで一緒で、1周間に2,3回は還りの電車が一緒になった。
クラブ活動が終わって数十分すると、空腹に耐えられなくなるのは男子だけじゃなく女子も同じらしい。乗換駅にある立ち食いのうどん屋で1周間に1度くらいのペースで、二人してうどんを食べた。ただし、彼女の場合、うどん1杯を一人で食べると、家での夕食に支障をきたすので、二人で1杯頼んで、それを7対3から6対4くらいに分けて食べた。
僕たちは、そういう意味では仲が良かったが、付き合っていた、というわけでは決して無かったんだ。話を交わすのは、乗換駅までの帰りの電車と立ち食いのうどん屋の中くらい。どんなことを話したかなんて、もう、すっかり忘れている。

Sは、電車を降りたホームで待っていてくれた。先程は気づかなかったが、ベージュのスーツを見事に着こなしている。攻撃的でもないし、コンサバティブ過ぎもしない。スカートはひざ上。僕と同級生だから50歳を少し超えているのに、その丈がよく似合った・

「久しぶりだね」
と声をかけると、
「ホントに……」
と、あの頃の笑顔で答えてきた。

もう、あの頃のように色は黒くない。もちろん数十年の時の経過を経ているのだから、高校生の彼女がそこにいるわけではないが、気持ちは高校生の頃に戻っていた。

「あまり時間がないの」
と、すこし困ったような表情。
「じゃあ、あそこに行きますか」
と僕は、駅ナカの立ち食いそばやを指さす。

彼女の困った顔が一気に笑顔に変わった。
「お腹は空いてたんだ」

二人で1杯のうどんを頼む。小分けする器をもらい、彼女に分ける。大人になって、しかも空腹な彼女が、結局80%くらい食べた。大人になるとはこういうことか。
うどんを食べている時間は、10分もなかっただろう。でも、僕たちは間違いなく高校生の頃に戻っていた。

「じゃあまたね。私は地下鉄に乗り換えなの」
「ああ、気をつけて」
「また会おう」と付け加えようとしたけど、やめた。
携帯の番号も交換せず、
地下鉄方面に小走りで走っていく彼女を見送りながら、二度と会うことはないだろうな、と思った。








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